アフリカにおける国際登録(マドリッド制度)の有効性に関する覚書

アフリカにおける国際登録(マドリッド制度)の有効性に関する覚書

作成:スティーブン・ホリス(パートナー)

検証:サイモンB. ブラウン(パートナー)、メガン・ムールダイク(パートナー)

  1. はじめに

マドリッド商標登録出願(以下、マドプロ)の制度は、スイスのジュネーヴに本部を置く世界知的所有権機関(WIPO)により管轄される。マドプロの制度は世界規模で商標を登録・管理するためのワンストップ・ソリューションを提供すると考えられている。WIPOへ所定の手数料を支払うとともに単一言語で表記した願書を提出することにより、マドプロの加盟国のブランド所有者は、最大137か国(世界貿易の80%を占め、現在も増加中)で自らのブランドを商標として保護することができる。

国際登録によって各加盟国で保護が認められた商標を一括管理することもできる。例えば、商標登録の所有者の氏名・住所の変更や商品・役務リストの減縮等は、WIPOへの1回の手続きで国際登録に反映させれば完了する。また、マドプロの制度は融通性が十分にあるので、特定の指定国または一部の商品・役務に対する所有権の移転や一部の指定当事者に対する登録内容の制限にも対応できる。さらに、既存の国際登録の地理的適用範囲は、後で追加指定した国(将来マドプロの加盟国となる国を含む)にまで拡張される可能性がある。

マドプロの制度を利用できる主体は、マドプロの加盟国の国民または住民である自然人あるいは該加盟国または加盟地域に現に実在する有効な工業施設または商業施設を有する法人である。

対応する標章を既に出願済みまたは登録済みである商標局(いわゆる「本国官庁」)を通じてのみ、マドプロの制度による新たな出願をすることができる。なお、願書で指定した国(以下、指定国)の登録局は該出願の審査結果についてWIPOの国際事務局に連絡する。願書を受領すると、WIPOは出願内容がマドリッド議定書の要求条件に適合するかどうかを、方式的内容(分類および商品や役務の仕様の理解を含む)に限定して審査する。出願に欠陥がなければ、国際事務局は出願された標章を国際登録簿に記録し、WIPOの国際標章公報に国際登録した内容を公表する。そして、その内容を各指定国に通報する。なお、この段階では各指定国で実質的な権利は生じていない。

標章が保護するに値するか、指定国で出願済みまたは登録済みの標章と競合しないか等の実質的内容は、各指定国の商標局によって各国内法に基づいて審査される。各指定国の商標局は、国際登録の保護認容に関するすべての補正指令や異議申立をマドリッド制度で認められた所定の期限以内(WIPOから出願内容が通報された日から12か月または18か月以内)にWIPOへ通報しなければならない。何も通報しない指定国においては、国際登録が保護認容され、有効な権利が発生したものとみなされる。

  1. アフリカにおけるマドプロの加盟国

以下の21管轄区域/地域がアフリカにおけるマドプロの加盟国/加盟地域である。

アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、リベリア、マダガスカル、モロッコ、モザンビーク、ナミビア、OAPI(アフリカ知的財産権機構)、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、シエラ・レオネ、スーダン、スワジランド、チュニジア、ザンビアおよびジンバブウェ

  1. アフリカにおけるマドプロの有効性

3.1 国内法の見地からの国際登録の保護認容

上記21管轄区域/地域のうち、ボツワナ、ガーナ、ケニア、モロッコ、モザンビークおよびチュニジアだけが、国内の商標法制に対する適切な改正および規則の有効化の実施により、マドリッド議定書の「国内の商標法制への取り込み」を完了している。

アルジェリアでは、2005年改正法で、国際条約(アルジェリアが加盟しているもの)を通じて取得した商標登録は有効であるとともに法的効力もあるということが、簡潔に述べられている。しかし、マドリッド議定書についての具体的な言及はなく、国際登録を処理する方法および補正指令または可能性のある異議申立の管理方法について登録官に知らしめるため規則が制定されていない。

リベリアでは最新(2003年)の商標法制で国際登録が完全に効力を持つようになったものの、関連する法令が議会を無事に通過できなかった。そのため、しかるべきプロセスを経るまでは国際登録に基づく商標登録の法的効力に疑問が残る。

エジプトでは国内法が適切に改正されておらず、規則の有効化もなされていない。エジプトの登録局は何年も国際登録を受け入れかつ処理してきているが、競合する国内登録に対する法的効力については、依然として裁判所の判断を仰ぐ必要がある。

地域システムであるOAPIでは、(複数国からなる組織の)管理委員会が2015年3月に該組織の17の加盟国を代表してマドリッド議定書を批准したところ、OAPIの商標担当の法律家の集団からなる異議グループは、当該管理委員会は17の加盟国の政府に対して法制化を求めることはできないと主張して批准に抗議した。(批准の)基礎となるバンジュール議定書の改訂は未だに検討されておらず、したがってOAPIを指定する国際登録に基づく商標登録の法的効力に疑念が残る。

ジンバブウェは2015年3月15日付けでマドプロの制度に加盟した。しかし、国際登録に基づく商標登録に適切な法的効力を与えるべく、国内の商標法を未だに改正していない。

ガンビアは2015年9月18日に加入書を寄託した時点で最後にマドリッド議定書を批准したアフリカの国となった。同議定書は2015年12月18日に発効した。ガンビアの商標法は2015年7月の改正により国際登録を完全に承認したが、地元の弁護士たちは、厳密に決められた期間内に登録局がWIPOに審査結果及び補正指令を伝えられるかどうかやや懐疑的であった。現在も、登録局の記録は完全にコンピュータ化されておらず、長年に渡る滞貨の処理に取り組んでいる。そのため、商標の出願の審査が完了するまでに何年もかかっている。マドリッド議定書に規定された厳密な期間(12〜18か月)内に出願を処理できることを登録局が示せるようになるまでは、国内登録を確保しておいて、ガンビアを指定する国際登録の有効性に関する疑念を取り除いた方が良いと思われる。

3.2  マドリッド議定書の国内法制化の難航に関連する諸問題

マドリッド議定書のような知的所有権関連の条約を国内法制に組み込む際の根本的な課題の1つは、国内レベルでさらに指導、手続き、仕組みを整える必要があること、すなわち、各国の知的財産を取り扱う役所が、補正指令や異議の取り扱い等の国際登録に関わる手続きを確実に処理できるようになることである。いわゆる「法制の有効化」が完了するまでは国内の商標法制さえも適切に機能しているとは考えられない。ちなみに「法制の有効化」は、各国の商標局によって事実上行われる施行準備を経て正式にプロセスと手続きが確定することにより、完了する。

手続き上の問題のほかに、国際登録は国内登録と同じ効力を持つと国内法で明確に担保されていることが重要である。そのような担保がなければ、国際登録に基づく権利が国内の慣習法や先行商標登録に基づく権利に対抗できるかどうかの判定は、国内の裁判所に委ねられることとなる。

知的所有権の訴訟はアフリカで増えつつある取扱分野だが、アフリカのほとんどのマドプロの加盟国では、国内の裁判所は多くの知的所有権事項について判断を示したことがなく、したがって判例もほとんど蓄積されていない。裁判長や審査官は、国際登録の国内での法的効力を巡る争議の公判や判決を下す際に、そのような争議に関する過去の判例をほぼ当てにすることができない。そもそも裁判に携わる者が知的所有権法を取り扱った経験すらない場合もある。正式に国内で「法制の有効化」が完了していない国では、裁判官は国内の知的所有権法の中にマドプロの制度に言及している箇所を見つけられないことがある。

マドリッド協定やマドリッド協定の議定書についての「法制の有効化」が完了していない国で商標争議に巻き込まれた場合、どんな知的所有権の訴訟人であれ、国際法の分析を通じた国際条約の適用可能性に基づく憲法的論議を展開する必要に迫られるよりも、国内で法的に認められた権利に頼ることのできる方を好む。

  1. アフリカにおける国際登録に関する実務的な難点

ほとんどのアフリカの商標局は物流上の問題に悩まされている。この問題は不適切な管理により状況が悪化し続けており、その要因はさまざまである。例えば、有能なスタッフを確保することの難しさ、労働条件に起因する長年に及ぶ管理上の未処理業務の存在、貧弱なインフラ、投資の欠如、無頓着な記録管理及びファイル維持システム等が要因とされている。

多くのアフリカの登録局はいまだにコンピュータ化されたシステムやデジタル化されたデータベースを導入していない。公的ファイルの置き間違えによって審査プロセスが頻繁に遅延する。WIPOはアフリカにおける多くの商標登録簿のデジタル化を図るいわゆる知的所有権自動化システム(IPAS)を展開しているが、まだ道半ばである(今後あと何年もかかる)。現在のところ、アフリカのほとんどの登録局でのオペレーションは、世界のほかの地域にある先進的な国々の商標局ほど合理化や効率化がなされていない。

マドプロの制度により国内の商標局に課せられる中核的義務の1つは、国際登録による指定は特定の期間内に審査しなければならないという点である(議定書によると標準の期間は12か月であるが、18か月に延長可能)。もし指定国の商標局が指定された期間内に標章に対する補正指令や異議申立されたことをWIPOに通知しなかった場合、WIPOは当該指定国に対する国際登録を保護認容する。

残念なことに、ほとんどのアフリカの登録局における取扱いにネガティブな印象を与えてしまう上述した問題点により、WIPOから出願内容が通報された日から12〜18か月以内の審査完了や異議申立のための公告を期待することはできない。したがって、国内の登録局が指定された期間の経過後に補正指令または異議申立されたことをWIPOに伝えた時には、WIPOは既に出願人に保護認容を通知してしまっているという状況となっている。このような場合、WIPOとブランド所有者(出願人)とは各国で有効に登録されたと考える。しかし実際には、WIPOに対する適切な通知を怠ったまま、各国の登録局はマドプロの制度による出願を拒絶して国内登録簿から当該出願の標章を抹消した可能性がある。このような事例のいくつかは、マドプロの制度が効率的に機能すると考えられ登録局の記録がコンピュータ化されているケニアやモザンビーク等の国々で発生している。

さらに悪いことに、多くの国々の登録局レベルでマドプロの制度のメカニズムに関する十分な知識が備わっていないと見受けられる。審査完了および異議申立されたことを通知すべき期限についての理解の欠如は、国内商標局とWIPOとの間で多くの混乱と誤解を招き、ひいては国際登録の所有者が自分の権利に対して指定国で異議申立されていることを知らないという事態を招く。そうなると、国際的なブランドの所有者は自らの中核的なブランドについて国内登録を確保することがアフリカで重要と考えるはずである。そのため、多くのマドプロの加盟国で国内出願が増えると予想される。

ガーナでは、商標(改正)法(2014年876号)が2014年7月に発効し、国内法の見地からマドリッド議定書を適切に承認、すなわち「法制の有効化」が完了した。ところが、ガーナの登録局は改正法の公布を認知しておらず、マドプロの制度による出願がかなり長い期間適切に処理、記録されなかったという報告を受けている。2008年(ガーナがマドリッド議定書を批准した年)と2014年7月の間でガーナを指定した国際登録の有効性について疑義がある。WIPOは2014年12月までにガーナを指定する国際登録に対してガーナの登録局が1件の補正指令も通知しなかったことを確認している。登録局がこれらの国際登録を適切に審査しなかった、あるいは登録を自動的に与えたという懸念がある。また、2014年7月以前はマドプロの制度による出願の処理方法を登録官とそのスタッフに通知する規則が存在しなかったため、ガーナの登録局に国際登録が適切に記録されなかったという懸念もある。2014年12月までにガーナの出願人から出願された国際登録はわずか3件だが、そのすべてが2013年に遡る。したがって、ガーナでさえも依然としてマドプロの制度が地元のブランド所有者から信頼されておらず利用されていない。

国際登録(マドプロの制度)の「法制の有効化」を完了するように法令や規則を適切に改正したボツワナでは、マドプロの制度による出願は適切に処理されておらず、かつ登録官は、WIPOが国際登録を審査するべきであると考えているように見受けられる。これは、アフリカの一部の登録局がマドプロの制度のメカニズムを依然として十分に理解しておらず、該メカニズムを導入していないもう一つの例である

適切な法改正がなされ登録局が有効に機能していると考えられるアフリカの国々(ケニアやモザンビーク等)ですらマドプロの制度が適切に機能しないのであれば、レソト、マダガスカル、ナミビア、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、シエラ・レオネ、スーダン、スワジランド、ザンビア等、適切な法改正がなされず、しかも長年及ぶ管理上の未処理業務の処理に登録局が苦心しているような国々を信頼することなどできない。

  1. 結論

結論としては、アフリカではマドプロの制度は、登録局がより発達した登録システムを備えている世界のほかの国々のように効率的、効果的には機能しない。マドプロの制度が適切に機能する時が来るまで、アフリカの重点国では、重要な商標を国内登録で保護することを強くお勧めする。

以上

スティーブン・ホリス(シニア・アソシエイト)

Adams & Adams

mail@adams.africa

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STEPHEN HOLLIS

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